ZANGYODAI 従業員から残業代請求をされた場合の対応方法を弁護士が解説

近年、労働者側の権利意識の高まりもあり多額の残業代請求に追い込まれる企業様が増えています。
現在雇用している従業員のみではなく、元従業員からの請求リスクもあります。

本コラムでは従業員から残業代請求をされた場合の対応のポイントを解説します。

従業員から残業代請求をされた場合の対応方法を弁護士が解説

こんなお悩みはありませんか?

経営者や人事担当者の方から、「(元)従業員から未払い残業代を請求された」と相談を受けるケースは非常に多いです。

  • 「弁護士の名前で内容証明郵便が届いたが、どうすればよいか?」
  • 「でたらめな請求だが、放置するとまずいのか?」
  • 「固定残業代を出しているのに追加で支払うのか?」
  • 「管理職なのに残業代を支払うのか?」

といったお悩みをよく耳にします。

たしかに、多額の残業代請求が認められるケースもありますが、請求された全額を支払う必要があるとは限りません。

重要なのは、請求を無視せずに、状況に応じて有効な反論をすることです。残業代請求への適切な対処法を知っておきましょう。

 

残業代請求を放置するリスク

残業代請求に対して「身に覚えがない」「支払いたくない」などと考えていても、決して放置してはいけません。

対応を怠ると、以下のようなリスクがあります。

労基署の立入検査

従業員が労基署に駆け込むと、会社が立入検査を受ける可能性があります。

労基署(労働基準監督署)とは、労働関係の法令が守られているかを調査・監督する行政機関です。

従業員からの相談をきっかけに、労基署が会社に立入検査を実施するケースがあります。残業代の未払いも立入検査の対象となり、会社側に問題があれば、是正勧告がなされます。勧告を無視するなどの悪質な場合には、刑罰が科されることもあります。

仮に、刑罰にまで至らないとしても、労基署の立入りを受けたという事実だけで会社の信用が傷ついてしまい、取引先から関係を見直されたり、従業員の退職を招いたりするおそれがあります(レピュテーションリスク)。

労働組合・ユニオンとの団体交渉

従業員が労働組合に相談すると、労働組合から団体交渉を申し込まれることがあります。

団体交渉を申し込まれれば、会社は原則として拒否できません。

組合との交渉対応に時間をとられ、協議の場で厳しく追及されるなどすると、通常の業務を圧迫してしまいます。

交渉がまとまらなければ、組合側の行動がエスカレートするおそれもあります。

団体交渉を申し込んでくるのは、企業内組合とは限らず、近年では、ユニオン(合同労組)から団体交渉を申し込まれるケースも増加しています。

労働審判

残業代の請求に対して会社が適切な対応をしないと、従業員が労働審判を申し立てるケースがよくあります。

労働審判とは、裁判所にて行われる、労使間のトラブルについて迅速な解決を目指す手続です。原則として3回以内の期日での解決を図るため、対応にスピード感が求められます。

特に1回目の期日が重要ですが、会社側が証拠収集、答弁書提出などの準備にかけられる時間は1ヶ月程度と大変短いです。

従業員側は申立てに至るまで時間をかけられますが、会社側は時間の猶予がないため、不利な立場に追い込まれるケースも少なくありません。

双方が協議の中で合意できなければ、審判(判決のようなもの)が告知されます。

審判内容に対して異議申立てがあれば、訴訟に移行することになりますので、解決まで長い時間を要します。

第2、第3の残業代請求

残業代トラブルでよくあるのが、他の従業員からの「第2、第3の残業代請求」です。

多くの場合、社内で残業代の支払いについて不満を抱えている従業員は、1人だけではありません。

会社の体制に問題があると、「自分も残業代を受け取っていない」と他の従業員も追随してくる可能性が高いです。

請求する従業員が増えると、会社が最終的に支払う残業代の総額も当然に膨らんでしまいますので、会社の根幹を揺るがす事態になりかねません。

 

反論のポイント

請求を受けたからといって、必ずしも全額を支払う必要はありません。会社側が適切に反論すれば、支払い額を減額、あるいはゼロにすることも可能です。

会社側から行う反論としては、主に以下の5つが考えられます。

労働時間に誤りがある

まずは、「そもそも従業員が主張している労働時間に誤りがある」という反論です。

残業代の請求において、残業時間の計算が間違っているケースや労働時間を過大に見積もっているケースはよく見られます。

そこで、タイムカードなどの客観的な証拠と照らし合わせて、従業員の主張する労働時間が正しいかを確認する必要があります。

また、記録上は会社にいても、休憩をしていて業務にあたっていない場合や、私的な行為をしていたという場合もあります。

業務にあたっていなかった時間があれば、会社から具体的に主張しましょう。

残業は禁止されている

「残業を禁止していた」あるいは「残業を承認していない」もよくある反論です。

残業を明確に禁止しており、残務の処理について代替措置が講じられていた場合には、会社の主張が認められる可能性があります。

もっとも、残業を黙認していたり、残業の承認制が実質的に機能していなかったりするケースでは、会社の反論が認められません。

禁止について明確な指示があったか、残業を防ぐ措置を講じていたかなど、残業についての実態がどうであったかが重要です。

固定残業代が適用されている

固定残業代を支給していたことも、未払い分がない根拠として主張することができます。

固定残業代とは、手当を支給する、基本給の中に残業代を含めるといった方法で、定額の残業代を支払う制度です。

「固定残業代を支払った」との反論が認められるには、

  • 通常の労働時間分の賃金と割増賃金とを区別できる
  • 固定残業代を支払った時間分を超える残業をしたら別途支払う

などの条件を満たしていなければなりません。

残業代の支払いについての制度設計を適切にしていないと、固定残業代が割増賃金の支払いと認められず、未払い分が大幅に増加してしまいます。

就業規則等が法律上問題のない定めとなっているかをよく確認しておくことが重要です。

管理監督者のため残業代が発生しない

請求してきた従業員が「管理監督者」にあたれば、法律上は残業代が発生しません。

もっとも、いわゆる「管理職」が、当然に法律上の「管理監督者」ではないという点に注意してください。

たとえば、「課長」という肩書きであっても、法律上の「管理監督者」にはあたらないと判断されるケースは多いです。

残業代が生じない「管理監督者」に該当するかは、以下の要素から判断されます。

  • 労務管理について経営者と一体の立場にあるか
  • 労働時間について裁量があるか
  • 賃金面で地位にふさわしい待遇を受けているか

経営者の方が考えているよりも、法律上の「管理監督者」に該当する範囲は狭いので、主張をする際には注意が必要です。

残業代の消滅時効が完成している

残業代の消滅時効期間が経過しており、すでに請求できなくなっているケースもあります。

現在の法律では、残業代の消滅時効期間は毎月の給料日の翌日から3年ですが、2020年3月31日以前に発生した分は2年となっています。

時効期間が経過している残業代については、「時効の援用」を行う必要があります。

「時効の援用」とは、時効により生じる効果を受ける旨を、相手に伝えることです。

時効の援用を行うと、時効が完成している残業代の支払い義務は消滅します。

客観的な証拠を残すために、時効の援用の意思表示は内容証明郵便で行いましょう。

時効が完成している部分については、支払いに応じる必要はありません。

もっとも、請求を受けて「支払う」などと告げてしまうと、消滅時効を主張できなくなる可能性がありますので、注意が必要です。

 

多額の残業代請求がなされた判例①

多額の残業代請求がなされた判例として、まずは康正産業事件(鹿児島地裁平成22年2月16日判決)を取り上げます。

概要

飲食店の従業員である原告が、長時間労働の結果、低酸素脳症となり意識不明の寝たきりになったケースです。原告は発症2~6ヶ月前に平均200時間の残業をしていました。

判決結果

介護費用や慰謝料など約1億8129万円の他に、未払い残業代約732万円の支払いが認められました。

ポイント

長時間労働と発症の因果関係を認めた判決ですが、高額の残業代が認められた点も特徴的です。残業時間が非常に長かったため、残業代だけで700万円を超える支払いが認められました。

2020年より消滅時効期間が3年に延長されたため、今後残業代を請求された場合の支払い額は増加すると予想されます。長時間労働が常態化している会社においては、高額の残業代を支払わなければならない可能性があります。

 

多額の残業代請求がなされた判例②

次は日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)です。

概要

ファストフード店の店長であった原告が、未払い残業代(約520万円)と慰謝料の支払いを求めました。

判決結果

未払い残業代として約500万円が認められました。

ポイント

店長が管理監督者にあたるか、いわゆる「名ばかり管理職」が問題になったケースです。

判決では、以下の点を指摘して、管理監督者にあたらないとされました。

  • 店長の権限は店舗内の事項に限られる(社員の採用権限や営業時間・メニュー・価格などの決定権限はない)
  • 労働時間についての自由裁量性もない(シフトマネージャーがいないときには、店長自らシフトマネージャーを務める必要がある)
  • 賃金は管理監督者に対する待遇としては不十分(下位の職位のファーストアシスタントマネージャーとの差は大きくない)

法律上の「管理監督者」に該当するためのハードルは思っている以上に高いので、「管理職への残業代支払いは不要」と安易に考えない方がよいでしょう。

 

残業代請求を予防するためのポイント

残業代を請求されると、1人あたり数百万円の支払いを余儀なくされるケースも少なくありません。

消滅時効期間が3年に延長された影響で、今後は会社の支払い額が増加すると予想されます。

残業代請求が会社を揺るがす事態を避けるには、そもそも請求されないような体制を構築するべきです。

残業代請求を予防するポイントとしては、以下の点が挙げられます。

就業規則の整備

就業規則等の社内ルールを整備することは、有効な対策の一つです。

たとえば、固定残業代の定めが不適切であれば、残業代を支払っていないとみなされる可能性があります。

そのうえ、固定残業代部分が基礎賃金に含めて計算されてしまうので、支払い額は大きく増加します。

このように、固定残業代は、社内ルールの不備により会社の負担が大きくなってしまう場合の典型例です。

弁護士などの専門家のアドバイスを元に、就業規則などにつき適切な制度設計をしておけば、高額の請求を防ぐことができます。

労働時間管理体制の見直し

従業員の労働時間の管理は、会社の責任において行わなければなりません。

したがって、「労働時間を十分に管理していなかった」「勝手に残業していた」といった言い訳は、原則として通用しません。

具体的な対策例としては、パソコンのログや入退室時間などを管理するシステムを導入することが考えられます。

労働時間の管理体制がしっかりしていれば、残業代の支給漏れを防ぐことができますので、請求されたとしても、会社として有効な反論がしやすくなるでしょう。

 

まとめ

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

残業代請求のリスクを正確に理解したうえで、適正な労働時間管理に向けた対応方法をぜひご検討ください。

弁護士法人山本総合法律事務所では、残業代請求をされた場合の対応に関するアドバイスのみではなく、貴社のご状況をヒアリングしたうえで残業代請求対策のご提案も可能です。具体的なサポートは下記よりご確認いただけます。

 

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