2026/03/13

不動産の賃貸経営をしていると、建物の老朽化や再開発、自己使用その他の事情により、借主に立ち退きをお願いしなければならない場面も出てきます。
基本的には借主との交渉により、合意の上で立ち退いていただくことになりますが、その際には立ち退き合意書を作成しておくことが重要です。
合意書を作成しなかったり、作成しても記載内容が不十分であったりすると、トラブルに発展するおそれがあります。
この記事では、立ち退き合意書に記載すべき事項を中心に、貸主に有利な立ち退き合意書を作成するために押さえるべきポイントについて、わかりやすく解説します。
目次

立ち退き交渉とは、貸主側の都合で賃貸物件を明け渡してほしい場合に、借主に対して賃貸契約の解除や更新拒絶を申し入れ、退去を求めるための交渉のことです。
借主の権利は借地借家法で厚く保護されているため、借主側に契約違反がない限り、貸主は「正当事由」がなければ立ち退きを請求できません。
しかし、「立ち退き料の支払い」も正当事由の一要素とされているため、他の正当事由が弱い場合には、立ち退き料を提供することで交渉成立を目指すことが可能です。
したがって、多くの場合は立ち退き依頼への諾否や退去の時期と併せて、立ち退き料の金額についても、借主との交渉を進めていくことになります。
立ち退き依頼を実施すべき理由はさまざまですが、代表的なケースとして以下のものが挙げられます。
理論上は、これらの事情が借地借家法28条の「正当の事由」に該当する場合は、借主との交渉も、立ち退き料の支払いも不要です。
とはいえ、強制的に立ち退かせるためには裁判をして、勝訴した上で強制執行を申し立てるなどする必要があり、多大な労力と時間、コストを要してしまいます。
そこで、多くの場合は迅速かつ円満な立ち退きを実現するために、立ち退き依頼を実施して合意による解決を目指すことになるでしょう。
立ち退き交渉が成立したら、合意内容を記載した立ち退き合意書を作成し、取り交わしておくことが大切です。
口頭の約束のみで済ませてしまうと、後日、借主との間で「言った・言わない」のトラブルが発生するおそれがあります。
このようなトラブルが発生したケースは多いです。
合意が成立したことと、合意内容を証拠化するためにも、必ず合意書を作成しておきましょう。

ここからは、立ち退き合意書に関して詳しく解説していきます。
立ち退き合意書とは、賃貸物件の貸主と借主が、明け渡しに関する条件について合意した内容を記載した書面のことです。
退去日や原状回復費用の負担、敷金の清算、立ち退き料の金額・支払い方法などを明記し、双方が署名押印して取り交わすことにより、トラブルの未然防止に役立ちます。
入居時には必ずといってよいほど賃貸借契約書が作成されますが、立ち退き依頼による退去時に合意書を作成しないケースは多いようです。必ず作成するようにしましょう。
立ち退き合意書を作成する必要性として、以下の3点が挙げられます。
まず、合意内容を明確に記載した書面を作成することで、双方の認識の違いによるトラブルの未然防止に役立ちます。
万が一、借主から「退去期限は来月だったはずだ」、「立ち退き料が少なすぎる」などと主張されても、取り交わした合意書を見せることで、合意内容を証明できます。
また、条件を明確化することにより、約束が守られやすくなるという効果もあります。
作成した合意書の内容を双方で確認し合い、1通ずつを持ち合うことで、借主は「○月○日までに明け渡さないといけない」などと意識し、実際に行動するようになるでしょう。
もちろん、貸主側も立ち退き料を合意内容のとおりに支払わなければならないなど、約束を守る必要があります。
さらに、合意書はトラブルが裁判に発展した場合の証拠としても活用できます。
裁判所に合意書を証拠として提出すれば、合意した事実と合意内容を容易に証明できるからです。
合意書がなければ、これらの証明は難しくなることが多いです。
合意書が証拠として採用されると、借主が「そんな合意はしていない」「合意内容が違う」などと反論する場合には、合意が成立していないことや、合意(したと主張する)内容を、借主側で証拠を提出して証明しなければなりません。

借主に立ち退き料を提供して物件を明け渡していただく場合に、立ち退き合意書に記載すべき必須の事項は次の3つです。
以下では、その他の記載事項も含めて、なるべく貸主に有利になるような観点から具体的に解説していきます。
なお、記載例の文中における「甲」は賃貸人、「乙」は賃借人のことを指します。
まずは、双方が賃貸借契約の解約に合意したことを記載します。
この合意が成立したことは、細かな条件について合意したことの大前提となりますので、合意解約した旨の条項を冒頭に設ける必要があります。
「甲および乙は、本日、本件建物に関する賃貸借契約を令和○年○月○日付で解除することに合意した。」
次に、いつまでに物件を明け渡していただくのか、退去期限を記載します。
期限は重要なのであいまいにせず、年月日を特定して記載する必要があります。
「甲は乙に対し、本件建物の明け渡しを令和○年○月○日まで猶予する。」
明け渡しの際に問題となる原状回復の問題についても、併せて記載しておくとよいでしょう。
建物の取り壊しを予定している場合は原状回復費用が無駄になってしまいますので、原状回復義務を免除するのが一般的です。
貸主側が物件を自己使用するケースなどでは原状回復の必要性がありますが、その費用については立ち退き料の交渉をする際に考慮し、金額を調整することも考えられます。
「甲は乙に対し、第〇条の明け渡し義務を履行することを条件として、本件建物の原状回復義務を免除する。」
立ち退き料については、金額と支払期限を明確にして記載する必要があります。
支払期限については、物件の明け渡しと引き換えか、明け渡しよりも後の日付を設定した方が、貸主に有利となります。
「甲は乙に対し、本件建物の明け渡しを受けるのと引き換えに、立ち退き料として金○○万円を支払う。」
「甲は乙に対し、本件建物の明け渡しを受けたことを条件として、令和○年○月○日限り、立ち退き料として金○○万円を支払う。」

ここからは、法律上は必須とまではいえないものの、盛り込んでおいた方が貸主に有利となる条項をご紹介します。
まず、借主が期限までに物件を明け渡さないことも少なくありませんので、その場合には借主が損害金を支払う旨の条項を設けるとよいでしょう。
そうすることで、明け渡しの約束が守られやすくなります。
損害金の額は、遅延期間に応じた賃料相当額~その1.5倍程度とするのが一般的です。
「乙が第〇条の明け渡し期限までに本件建物を明け渡さないときは、甲に対し、本件建物の明け渡しに至るまで、損害金として1か月金〇〇円の割合による金員を毎月末日限り支払う。」

立ち退きによって賃貸借契約が終了しますので、借主から敷金を預かっている場合には、その清算と返還が必要です。
敷金に関するトラブルを未然に防ぐためには、特に原状回復義務の有無と範囲について借主と十分に交渉し、合意しておくことが重要となります。
「甲は、本件建物の明け渡しを受けたときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。
ただし、本件建物の明け渡し時に、甲乙間の賃貸借契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。」

借主から明け渡しを受けた後も、物件内に私物が残置されているケースは多いです。
法律上、残置物の所有権者は原則として借主のままなので、貸主が勝手に処分することはできません。
そのため、明け渡し後の残置物については借主に所有権を放棄してもらい、貸主が自由に処分してよい旨の合意をしておくことが重要です。
「乙が甲に対して本件建物を明け渡した後、本件建物に残置された物が存在する場合には、乙はその所有権を放棄し、甲において任意に処分することができるものとし、乙は何らの異議を述べないものとする。残置された物の処分に要する費用は乙の負担とする。」
清算条項とは、その書面に記載された条項の他には相互に一切の権利義務が存在しないことを確認し、後日、何らの請求もしないことを誓約するための条項です。
この条項を定めることで交渉の蒸し返しを防止できますので、契約書や合意書、和解書、示談書などには通常、末尾に清算条項が盛り込まれます。
「甲と乙は、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務関係の存在しないことを相互に確認し、今後において、名目のいかんを問わず、何らの請求をしないこととする。」

貸主側の事情で借主に立ち退きを依頼する以上は、立ち退き料の有無や金額、明け渡し時期などについて誠実に交渉し、合意の上で、「立ち退き合意書」を作成することが大切です。
ただし、適切な内容の合意書を作成するためには、借主と交渉する段階においても、合意内容を書面に記載する段階においても、専門的な知識や経験が要求されます。
不利な内容の合意書を作成してしまわないためにも、分からないことがあるときや不安を感じたときには、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士法人山本総合法律事務所は、立ち退き問題をはじめとして、群馬県内における不動産トラブルや賃貸経営に関する法的問題を数多く取り扱い、豊富な解決実績を有しております。
群馬で不動産立ち退きに関する問題でお困りの際は、お気軽に当事務所へご相談ください。
当事務所では経営者様に向けた法的サポートを行っております。
経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。