2026/02/19

労働審判制度は、企業と従業員の間に生じた労働トラブルを迅速に解決するための手続きです。しかし企業側が十分な準備を怠ると、思わぬ敗訴に直面することがあります。証拠の不備、社内手続きの不備、初動対応の遅れなどはすべて、企業が労働審判で不利になる典型的なパターンといえます。
そこで本稿では、企業が労働審判で敗訴しやすい具体的なケースとその背景について詳しく解説します。さらに、敗訴によるリスクや負担、そしてそれを回避するための実践的な対策についても詳しく紹介します。
目次

企業が労働審判で負けることにより、どのような事態が生じるでしょうか。
労働審判制度は、労働者と企業の間に生じた労働紛争を迅速かつ柔軟に解決するための制度です。
企業が「労働審判で負ける」とは、労働者の主張が認められ、企業側の反論が退けられることを意味します。
これにより、企業は金銭の支払い(未払い賃金、解雇無効による賃金補償、慰謝料等)や謝罪、復職対応などの義務を負うことになります。
こうした義務の履行は、企業の事業活動にも少なからず影響を及ぼします。
たとえば、復職命令が出た場合には、職場の人員配置や業務分担を見直す必要があり、現場の運営に混乱を招くことがあります。
また、審判対応に人事部門や法務部門の時間・労力が割かれることで、通常業務に集中できなくなり、営業活動や顧客対応などの本来の事業に支障が出る可能性もあります。
さらに、敗訴をきっかけに社内制度の見直しや再発防止策の構築が求められるため、経営資源の分散が避けられず、企業全体のパフォーマンスに影響を及ぼすこともあります。
労働審判での敗訴は、単なる法的義務の履行にとどまらず、企業の組織運営や経営戦略にまで波及する可能性があります。
審判が確定すると、企業はその内容に従って履行義務を負うことになります。
たとえば、解雇が無効とされた場合には、従業員の復職を受け入れ、未払い賃金を支払う必要があります。
審判内容に不服がある場合は、正式な訴訟に移行することも可能ですが、その場合はさらに時間と費用がかかり、負担はさらに大きくなります。

以下では、企業が労働審判で敗訴しやすい5つのケースについて解説します。
労働審判では、書面と証拠が極めて重要です。
企業側が従業員とのやり取りや処分理由を裏付ける記録を残していない場合、労働者側の主張が優位に立ちやすくなります。
たとえば、解雇理由を示す業務評価や注意書面が存在しないと、解雇の正当性を証明することが困難になります。
就業規則や懲戒規定が曖昧であったり、周知されていない場合、企業の処分が無効とされることがあります。
特に解雇や減給などの不利益処分を行う際には、法令に則った手続きが不可欠です。
手続きに瑕疵があると、審判委員会の判断に大きく影響します。
日本の労働法は労働者保護を基本としており、解雇には合理的で社会通念上相当な理由があることが求められます。
労働審判では、従業員に業務上のミスや勤務態度の問題があっても、それが解雇に値するかどうかについて慎重に判断されます。
企業側が「感情的な判断」で解雇を決定した場合、審判で不当解雇と認定されるリスクが高まります。
労働審判では、申立てから約40日以内に第1回期日が設定されます。
そのため、企業側は短期間で答弁書を作成し、主張と証拠を整理する必要があります。
初回期日までに十分な準備が整っていない場合、企業側の主張が十分に伝わらず、審判委員会に不利な印象を持たれてしまうことがあります。
これにより、初回期日に提示される和解案が、企業にとって不利な内容となる可能性も高まります。
審判期日に出席する企業関係者(上司、人事担当者など)の証言が食い違ったり、事実確認が曖昧な場合、企業の主張の信頼性が低下します。
また、企業側の出席者が労働審判の進行や審判委員からの質問への対応に十分な準備ができていない場合、企業の主張がうまく伝わらず、審判委員会に不利な印象を与えてしまうことがあります。
こうした印象は、審判の判断や和解の条件にも影響を及ぼす可能性があるため、事前の対応訓練や事実確認が重要です。

労働審判での敗訴は、企業にどのようなリスクや負担をもたらすでしょうか。
労働審判で企業が敗訴した場合、解決金や未払い賃金、慰謝料などの支払いが命じられることがあります。
厚生労働省が令和4年(2022年)10月26日に開催した労働政策審議会労働条件分科会で報告された調査結果によれば、令和2年(2020年)および令和3年(2021年)に終局した解雇トラブルに関する労働審判の平均解決金は約285万円とされています。
企業にとっては、金銭面で大きな負担となることがわかります。
労働審判の結果は、社内の従業員や取引先にも知られる可能性があります。
特にパワハラや不当解雇が認定された場合、企業の評判に深刻なダメージを与え、採用活動や顧客対応にも影響を及ぼします。
審判結果に不服がある場合、正式な訴訟に移行することができます。
しかし、訴訟は長期化しやすく、弁護士費用や人件費、証拠収集の負担が増加します。
結果として、訴訟への対応に時間や人手が取られ、通常業務に集中できなくなることで、企業の本来の事業活動に悪影響が出る可能性があります。

では、労働審判で不利にならないために企業はどのような対策を立てるべきでしょうか。
日常的な業務指導や注意喚起、評価面談などの記録を残すことが重要です。
メールや議事録、面談記録などのやり取りは、内容ごとに分類したり、日付順に整理したりして、後からすぐに見つけられるようにしておきましょう。
こうした記録をきちんと整理して保管しておけば、万が一労働審判になった際にも、企業の主張を裏付ける証拠として活用することができます。
労働審判は迅速な解決を目的としているため、対応にはスピードが求められます。
そのため、企業単独で対応するのではなく、労働問題に精通した弁護士と連携し、主張の骨子や証拠の整理を行うことで、審判委員会に対して説得力のある説明ができるようになります。
審判期日に出席する担当者は、事前に事実関係を整理し、証言内容を確認しておく必要があります。
また、審判の流れや質問への対応方法についても、事前に弁護士とリハーサルをしておくことで、当日の審判での対応力を高めることができます。

労働審判での対応に失敗しないために、企業がやっておくべきことは以下のとおりです。
他社の労働審判事例や裁判例を分析し、どのような対応が敗訴につながったのかを把握することは、予防策の構築に役立ちます。
特に、証拠不足や手続きの瑕疵による敗訴は繰り返されやすいため、社内研修などで共有することが有効です。
労務管理体制や就業規則の整備状況を定期的にチェックし、問題がある場合は早期に弁護士へ相談することが重要です。
トラブルが顕在化する前に予防的な対応を行うことで、労働審判のリスクを大幅に低減できます。

労働審判は、企業にとって予期せぬリスクと負担をもたらす可能性があります。
証拠の不備や社内手続きの不備、初動対応の遅れが敗訴につながることも少なくありません。
こうした事態を未然に防ぐためには、専門的な知識と経験を持つ法律事務所との連携が不可欠です。
弁護士法人山本総合法律事務所では、企業の労働審判対応に精通した弁護士が、初期対応から審判期日まで一貫してサポートいたします。
証拠の整理や主張の構築、出席者の準備など、企業が見落としがちなポイントを丁寧にフォローし、審判委員会に対して説得力のある対応を実現します。
また、事前の労務リスク診断や就業規則の整備支援、従業員対応のアドバイスなど、予防的な法務支援にも力を入れております。
労働審判を「起きてから対応する」のではなく、「起きる前に備える」ことで、企業の信用と経営資源を守ることが可能です。
労働審判で不利にならないために、そして企業の持続的な成長のために、ぜひ弁護士法人山本総合法律事務所へご相談ください。
企業法務のプロフェッショナルが、貴社の課題に真摯に向き合い、最適な解決策をご提案いたします。
当事務所では経営者様に向けた法的サポートを行っております。
経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。