2026/03/09

労働審判は、専門知識がなければ対応が難しい手続きです。なかには、「費用を抑えるために、弁護士をつけずに自社で対応しよう」と考える経営者もいるかもしれません。
しかし、その決断には大きなリスクが潜んでいます。
今回は、企業が弁護士なしで労働審判に対応することの危険性について、具体的なリスクや実例を交えて解説します。
目次

労働審判に自社対応を選択する前にまず知っておかなければならないことについて、最初に解説します。
労働審判で弁護士をつけずに自社対応を選ぶ企業には、いくつかの理由があります。
最も一般的なのは、コスト削減です。弁護士費用は決して安くなく、特に中小企業にとっては大きな負担となります。
また、「自社の問題だから自分たちで解決したい」「相手の主張は間違っているから、わざわざ弁護士を立てるまでもない」などと考えがちになる点も挙げられます。
しかし、このような考えは、労働審判の厳格な手続きや専門的な内容を十分に理解していないために生じるものです。
労働審判は、原則として3回の期日で終了する手続きです。
短期間のうちに、事実関係の整理、法的根拠に基づいた主張、証拠の提出などを完璧に行うことは、法律の専門家でなければ非常に困難です。
労働審判を自社で対応する際には、以下のような限界とリスクを認識しておく必要があります。
労働審判では、労働契約法、労働基準法などの多岐にわたる法律知識が不可欠です。
専門家でなければ、相手方の主張のどこが法的に不当であるのか、自社の主張を裏付けるためにどのような法的根拠が必要なのかを正確に判断することはできません。
労働審判は、答弁書や準備書面、証拠の提出など、厳格な手続きルールが定められています。
不備があれば、相手方に有利な判断を招くおそれがあります。
労働審判の準備には膨大な時間がかかり、精神的なストレスも相当なものです。担当者の負担が増大し、他の業務に支障をきたす可能性もあります。
労働紛争は感情的な対立を伴うことが多く、相手方の主張に感情的に反発したり、和解のタイミングを逃したりするリスクが高まります。

労働審判を自社で対応する際に、特に陥りやすい3つの問題を具体的に見ていきましょう。
労働審判で最も重要なのは、自社の正当性を法律に基づいて論理的に主張することです。
しかし、法律の専門知識がないと、この点が大きく欠落しがちです。
たとえば、解雇事案の場合、企業は、労働契約法に照らして、解雇理由が「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」を満たしていることを具体的に主張・立証しなければなりません。
自社対応の場合、感情的な反論や事実の羅列に終始し、「相手が悪い」という抽象的な主張に留まってしまうことが少なくありません。
そのため、審判官や労働審判員に「企業の主張は説得力に欠ける」と判断され、不利な心証を与えてしまいます。
労働審判は、主張の裏付けとなる証拠が非常に重要です。
自社で対応する場合、この証拠の整理・提出が不十分になりがちです。
弁護士は、過去の判例や労働審判例に基づき、どのような証拠が有効かを熟知しています。
たとえば、タイムカードの記録、業務日報、メールのやり取り、面談記録なども、法的な主張を補強する重要な証拠となり得ます。
自社対応では、これらの証拠の重要性を見過ごし、有利な状況を作り出す機会を逃してしまいがちです。
労働審判は、通常、申立書が届いてから約2週間〜1か月で第1回期日が設定されます。
この間に、申立書の内容を精査し、答弁書を作成し、必要な証拠を収集・整理し、期日に備えなければなりません。
普段から労働紛争に対応していない企業が、この短期間で完璧な準備を行うのは至難の業です。
第1回期日までに十分に準備ができず、やむを得ず期日を延期してもらうことになれば、不誠実な対応とみなされる可能性があります。
逆に、準備不足のまま期日に臨めば、自社の主張を十分に展開できないまま和解を迫られることになりかねません。

弁護士をつけずに労働審判に臨んだ場合、具体的にどのようなデメリットが生じるのでしょうか。
「弁護士費用を節約しよう」という思いで自社対応を選んだ結果、かえって金銭的な損失が拡大する事態がしばしば発生します。
A社は、退職した従業員から未払い残業代と不当解雇を理由とする労働審判を申し立てられました。
A社は「残業代は支払っているし、解雇も正当だ」と自信があり、弁護士をつけずに自社で対応することにしました。
しかし、従業員の労働時間を正確に把握しておらず、タイムカードの記録も不完全でした。
審判期日において、審判官から労働時間の管理状況の不備を厳しく指摘され、和解を強く勧められましたが、A社は納得しませんでした。
労働審判では解決に至らず、訴訟に移行したため、結局は弁護士を依頼することになり、最終的に多額の和解金を支払いました。
自社対応による主張の不備や証拠不足は、敗訴やそれに近い和解につながりかねません。弁護士費用を節約したつもりでも、結果的により大きな金銭的負担を招く可能性があります。
労働審判に適切に対応できないことは、企業の信用を大きく損ないます。
労働審判は、従業員との間で起こるトラブルです。
企業が労働審判に誠実に対応できない姿は、現職の従業員に「この会社は従業員を大切にしない」「何かあった時に会社は守ってくれない」という不信感を与えかねません。
労働審判は公開の手続きではありませんが、和解内容や審判内容を当事者である労働者が周囲に話す可能性があります。
また、SNSやインターネット上に情報が拡散されるリスクも無視できません。
企業が労働審判で不利な結果になったことが知られれば、採用活動への悪影響、取引先からの信用低下、ひいては企業イメージの悪化につながる可能性があります。
労働紛争が行政指導のきっかけとなることもあります。
特に、労働基準監督署から是正勧告を受けるなど、コンプライアンス上の問題が露呈すれば、企業の社会的信用は大きく損なわれます。
労働審判への自社対応は、担当者にとって過大な業務負担と精神的ストレスをもたらします。
弁護士に依頼すれば、これらの負担から解放されます。書面作成や証拠整理はすべて弁護士が担当し、期日にも弁護士が出席します。
企業は、弁護士からのアドバイスに従い、必要な情報を正確に提供するだけでよくなります。
労働審判の担当者が本来の業務に集中し、企業全体として健全な運営を維持するためには、非常に重要です。

以下では「それでも、まずは自社でできることをやってみたい」と考える企業のために、最低限必要な準備と、弁護士を頼るべきタイミングについて解説します。
申立書が届いたら、まず以下の作業をしましょう。
これらの作業を進めていく中で、「この主張には、どんな法律が適用されるのだろう?」「この証拠だけでは弱いのではないか?」といった疑問や不安が少しでも生じたら、弁護士に相談すべき重要なサインといえます。
労働審判の期日には、通常、企業側から人事担当者や責任者が1名出席します。
期日では、冷静な対応を心がけ、不確かな憶測ではなく事実のみを述べるようにしましょう。
また、審判官から和解を打診される可能性を考え、どの程度の金額であれば和解に応じられるか、譲歩できる点はどこかを社内で議論しておきましょう。
社内では、労働審判に関する情報が担当者以外に漏れないよう、情報共有の範囲を限定し、対応の窓口を一本化しておくことも重要です。
以下のいずれかに該当する場合は、迷わず弁護士に依頼すべきです。
労働審判は、企業にとって非常に重要な問題です。専門家の助けが必要だと感じたら、弁護士に依頼すべきタイミングと考えましょう。

最後に、どうしても自社対応を選ばざるを得ない場合に、企業が持つべき視点についてお伝えします。
自社対応を選ぶ際には、必ず「見えないコスト」を考慮しなければなりません。具体的には以下のものが挙げられます。
これらのリスクを数値化し、「弁護士費用を支払ってでも、専門家に任せる方がトータルで安上がりになるのではないか?」という視点を持つことが重要です。
「弁護士に依頼する」という選択肢を、最初から排除せず、以下の選択肢を検討しましょう。
労働審判は、迅速な解決を目指す手続きであるからこそ、初動の対応が結果を大きく左右します。
後悔することのないよう、「専門家の力を借りる」という選択肢を常に持ち続けることが、企業を守る上で最も賢明な判断です。

弁護士法人山本総合事務所は、労働紛争に精通しております。迅速な対応が求められる労働審判において、企業のリスクを最小限に抑え、最善の解決策を提示いたします。
労働審判でお悩みの経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。
当事務所では経営者様に向けた法的サポートを行っております。
経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。