2026/04/30

目次

社員から残業代や未払賃金で労働審判を起こされた場合、会社側には様々なリスクが生じます。
まずは、多額の未払賃金や残業代の支払いを命じられるリスクです。
労働審判や訴訟で会社の未払賃金支払義務が認定されれば、会社には未払賃金やそれに対する遅延損害金の支払いが必要になり、その額は思っているよりも高額になりやすいです。
さらに、賃金の未払い問題が発覚すると会社の社会的信用の失墜につながり、社内外からの信頼低下という打撃も免れません。
近年はSNS等で社内トラブルが広まりやすく、いったん「ブラック会社」と評されれば会社イメージが大きく損なわれる恐れがあります。
未払賃金を巡る紛争は会社経営に多方面で深刻な影響を及ぼしかねないのです。
こうしたリスクを踏まえ、労働審判を申し立てられた場合には初動から慎重かつ適切な対応が求められます。
訴訟と違い、労働審判は非常にスピーディーで、原則3回以内の期日で結論が出されます。
実務的には、1回目の期日でほぼ審理が終了し、和解へ向けた話し合いがされるケースが多いです。
そのため、労働審判を申し立てられた会社は、第1回期日で必要な主張と証拠を全て出し切る必要があります。
第1回期日が勝負なのです。
そして、労働審判は申立てから概ね40日以内の日付が第1回期日として指定され、会社側は第1回期日の7~10日前までに答弁書を提出せよとの期限が示されます。
実質的な準備期間は約3週間程度しかない計算です。
前述のとおり第1回期日が勝負ですから、この3週間で必要な準備を整えなければなりません。
労働審判で会社側に大きな負担となるのは、このタイトなスケジュールといっても過言ではありません。
タイトなスケジュールの中で準備を進める上では、初動対応が肝要です。申立書が届いたら、まず期日呼出状で第1回期日や提出期限を正確に確認しましょう。
次に、労働者から出された申立書と証拠を確認し、どのような事実関係に基づきどのような請求をされているのか、そしてそれを裏付けるどのような証拠があるのかを分析します。
そして、社内での事実確認のため関係者のヒアリングや資料の収集を手配しましょう。
ここまでが、最低限必要となる初動対応です。

未払賃金を巡る紛争での主な論点は①実労働時間と②算定基礎賃金の2つです。
このうち、①実労働時間は、会社の勤怠記録やシステムが重要な証拠ですから、まずはこれを確認しましょう。タイムカード、アプリの記録などが典型例です。
運送業であれば運転日報やタコメーターが考えられます。
②算定基礎賃金を検討するため、自社の就業規則や賃金規定で給与制度や手当を確認しましょう。
未払賃金の計算のベースとなる算定基礎賃金は結論に大きく影響します。
実務では、会社が算定基礎賃金に含まれないと考えている「〇〇手当」や「固定残業代」が裁判所の判断で算定基礎賃金に含まれてしまい、結果として未払賃金が増加するというケースが散見されます。
労働審判の初動対応として確認するだけでなく、場合によっては労働審判終了後に将来を見据えて制度そのものの見直しも必要になるかもしれません。
労働者側の請求額と計算方法が、会社の制度と合致しているかも確認しましょう。
上記のように、会社側が算定基礎賃金に含まれないと認識している手当や固定残業代を算定基礎賃金に含めて請求してきている可能性がありますし、実労働時間も“休憩はなかった”“もっと長く残業していた”などとして会社の記録と異なる主張をしてきているかもしれません。

労働審判では会社側の反論を書面化した答弁書を期限内に提出することが極めて重要です。
答弁書とは、申立人である従業員の主張に対する会社側の回答・反論をまとめた書面で、これを提出しないと会社側の言い分を十分に主張できません。
答弁書は必ず期限内に提出しましょう。
答弁書には申立の趣旨に対する答弁、申立書記載の事実に対する認否、反論の理由となる具体的事実や争点に関連する重要事項などを記載します。
しかし、タイトなスケジュールの中で充実した答弁書を作成するのは容易ではありません。
社内だけで対応するのが難しければ早期に弁護士の協力を仰ぐことを検討してください。
労働審判では提出された答弁書と証拠に基づき第1回期日に事実確認や当事者への質問(審尋)が行われ、裁判所の心証形成にも大きく影響します。
答弁書の出来具合で勝負がほぼ決まりますから、必要な主張を適切な法的理論で主張しなければなりません。
期日本番では法律的な論点整理も求められるため、可能であれば弁護士と連携しながら主張を組み立てていきましょう。
なお、正当な理由なく第1回期日を欠席すれば5万円以下の過料に処される場合があり、答弁書を出さないと労働者側の主張がそのまま認められてしまうリスクもあります。
期限遵守と綿密な答弁書作成は、会社防衛の要と心得てください。
弁護士と相談しつつ、社内での追加調査や証拠の点検も行いましょう。
会社側が重要視していない事項でも、弁護士から見ると重要であることはよくあります。
収集した証拠も、弁護士の助言を受けながら取捨選択と精査を行います。
無益な証拠や、むしろ会社を不利にしてしまう有害な証拠は提出しないのが基本ですが、隠匿するとかえって大きなダメージとなることもあるため、開示すべきものはきちんと提出するという選択もありえます。
どの証拠をどう活用すべきか判断に迷う場合は必ず弁護士と相談しましょう。
労働審判では第1回期日で当事者や関係者に対する審尋(質問)が行われるのが通常です。
会社側も期日に出席して裁判所の質問に答える必要がありますから、誰が出席するかは事前に選定しておかなければなりません。
基本的には会社の代表者か、人事担当役員等の決裁権のある人が出席します。弁護士へ依頼すれば弁護士も同席し、助け舟を出せます。
出席者を決めたら、期日へ臨むための準備をしましょう。
会社側の主張は答弁書にまとまっていますから、労働審判当日までに答弁書を改めて確認する必要があります。
裁判所からどのような質問が来ても適切に回答できるよう、予行演習をしておくと安心です。
また、未払賃金の支払義務自体は存在する可能性が高いならば早期の金銭解決も視野に入りますから、和解金として何円までなら払えるのか、予算取りもしておくと早期解決が期待できます。

対応するのが面倒とか、大した額を請求されていないなどの理由で無条件に請求内容を認めることはNGです。
減額できる余地があるかもしれませんし、無条件に認める会社の姿勢が他の従業員に知られてしまい他の従業員からも同じような労働審判を申し立てられるリスクがあります。
会社の給与制度を見直す機会も逸してしまいます。
労働者からの請求を無条件に認めるのではなく、申立の内容を分析・検討して会社として主張すべきことはきちんと主張しましょう。
労働審判は裁判所で行われる法的手続です。
裁判所は客観的証拠を重視します。特に未払い賃金の案件では、実労働時間はタイムカード等の勤怠記録、算定基礎賃金は賃金規定といった証拠が重要視されます。
これに反する主張は採用されない可能性が高いです。
根拠を示せる主張を行わななければなりません。
そして、根拠を示すためには根拠となる資料を集める初動対応が肝要なのです。

労働審判対応に臨む際の会社側チェックリストを確認しましょう。
以下のポイントについて整理できているか、チェックしてみてください。
弁護士への相談は早ければ早いほど良いでしょう。
労働審判の呼出状が届いた時点が、一つのタイミングです。
特に会社だけで対応する経験がない場合、迅速な準備が求められる労働審判手続きを進めるには専門家の力が不可欠です。
弁護士であれば、限られた期間内での答弁書作成・証拠収集をサポートし、法的に有効な主張を組み立てることが可能です。
また第1回期日に向けた審尋対応のアドバイスや、和解の落としどころの見極め、審判結果に対する異議申立て(その後の訴訟対応)まで一貫した対応が期待できます。
もちろん、事前に相談しておくに越したことはありません。
就業規則の策定や給与制度の見直しの時点で顧問弁護士に意見を求めておけば、労働審判の申立て自体を防げる可能性もあります。

残業代や未払い賃金の労働審判への対応は、スピードと専門性が要求される難しい手続きです。
会社側にとって不利益を被らないためには、法律のプロフェッショナルと二人三脚で進めるのが得策です。
当事務所ではたしかな経験とノウハウを持つ専門の弁護士がご相談をお受けします。
まずはお気軽にお問い合わせください。
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経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。