2026/04/15

解雇した従業員や、自主退職したはずの従業員から、ある日突然、労働審判で企業が不当解雇を訴えられるケースは少なくありません。
労働審判は裁判(訴訟)ほどには厳格な手続きではありませんが、その反面で迅速な対応を求められることに注意が必要です。
本記事では、労働審判で不当解雇を訴えられたときに企業がとるべき対応について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次

不当解雇で労働審判を申し立てられると、企業には裁判所から書類が送付されます。
裁判所からの書類を受け取ったら、まずは落ち着いて、以下のことを確認して審判への対応に備えましょう。
申立人となった元従業員の主張に正当性が認められる場合には、企業に対して法的に金銭の支払いを命じられる可能性があります。
不当解雇を訴える元従業員の多くは、復職よりもバックペイや慰謝料の支払いを求めているのが実情です。
バックペイとは、解雇が無効と判断された場合に、解雇の時点から未払いとなっている賃金のことです。
裁判所が審判を下す場合には、これらの賠償金に対して遅延損害金も付されます。
解決までの期間が長引けば長引くほど、バックペイや遅延損害金の金額が増大していくことに注意しなければなりません。
金銭的なリスクを少しでも抑えるためには、早期の解決を目指して迅速に対応することが重要となります。
労働審判とは、企業と従業員との間で発生した労働トラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。
原則として3回までの期日で審理が終結するという特徴があります。
申し立てから終結までの期間は、平均して2~3ヶ月程度です。
訴訟では第1審の判決までに1年以上かかるケースも少なくありませんが、それと比べると、労働審判の手続きは非常にスピーディーに進められます。
また、労働審判の第1回期日は、原則として申立日から40日以内の日時に指定されます。
相手方(申し立てられた側)に対しては、第1回期日の1週間ほど前までに、答弁書の提出を命じられます。
そのため、労働審判を申し立てられた企業は、おおよそ3週間程度の間に事実関係を確認した上で、自社の主張を法的に整理して答弁書を作成し、主張の裏付けとなる証拠も収集しなければなりません。
この初動対応が不十分になると、労働審判委員会(裁判官1名と労働問題の専門家2名で構成されます。)が申立人寄りの心証を抱いてしまい、企業にとって不利な方向に手続きが進められる可能性が高まります。

元従業員は解雇が不当であり無効であると訴えているわけですから、企業側としては解雇に正当性があるかを確認し、正当性があると判断した場合には、その根拠を主張・立証しなければなりません。
そのためには、以下に掲げる3つのチェックポイントを押さえておく必要があります。
解雇は、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合にのみ認められます(労働契約法第16条)。
簡単に言い換えると、労働契約を一方的に終了させなければならないほど重大な問題があり、第三者が見ても解雇がやむを得ないといえるような状況でなければ、不当解雇に該当してしまうのです。
例えば、著しい能力不足や適格性の欠如、たび重なる無断欠勤や遅刻などの勤務態度不良、重大な業務命令違反、悪質なハラスメント行為などが、解雇の客観的かつ合理的な理由に該当する可能性があります。
単に「気に入らない」「社風に合わない」というような、主観的な理由は認められません。
また、能力不足や勤務態度不良については、まず企業が適切な指導や教育、配置転換などの改善措置を尽くし、それでも改善が見込めない場合にはじめて、正当な解雇理由となることにも注意が必要です。
解雇に客観的かつ合理的な理由があったとしても、適正な手続きが踏まれていなければ、不当解雇として無効となる可能性が高まります。
普通解雇の場合なら、原則として解雇予定日の30日前までに解雇予告を行うか、または、不足日数分の解雇予告手当を支払っていなければなりません。
懲戒解雇の場合は、あらかじめ就業規則に解雇事由を明記しておく必要があります。
その上で、解雇前に対象者に対して弁明の機会を与えていなければ、適正な手続きが踏まれていないと判断される可能性が高まることに注意が必要です。
また、能力不足や勤務態度不良の従業員に対して、指導や教育、配置転換などの改善措置を尽くすことも、適正な解雇手続きの一環として不可欠となります。
解雇の正当性が認められる事案であったとしても、そのことを立証できる証拠がなければ、労働審判で不利になる可能性が高いです。
そのため、自社の主張を裏づける証拠を確保することが重要となります。
まず、解雇予告通知書や解雇通知書、退職届などの基本的な文書が保管されているかを確認しましょう。
能力不足や勤務態度不良の従業員を解雇した場合は、勤怠記録や指導・教育・配置転換などを行った際の記録、業務日報などが有力な証拠となることが多いです。
その他にも、元従業員との解雇や退職をめぐるやりとりの内容や経緯が分かる記録として、メールのログやメモなども重要な証拠となることがあります。

労働審判で不当解雇を訴えられた場合には、弁護士と連携することで、対応準備をスムーズに、かつ、効果的に進めることができます。
特に、以下の点については、弁護士のサポートを受ける重要性が高いといえます。
答弁書の提出期限は裁判所から送られてくる呼出状に記載されていますが、ほとんどの場合、申立書の写しを受け取ってから3週間程度しか時間の余裕がありません。
この期間内に、申立人の主張内容を把握した上で事実関係を調査し、自社の主張を法的に整理して答弁書を作成し、裁判所へ提出する必要があります。
以上の作業には多大な労力がかかる上に、専門的な知識も要求されますので、自社の人員のみで対応しようとすると間に合わなくなってしまうでしょう。
その点、弁護士に依頼すれば、答弁書の作成・提出を代行してもらえます。
ただし、弁護士といえども、充実した内容の答弁書を作成するためには相応の時間と労力を要しますので、可能な限り早めに弁護士へ相談することが重要となります。
労働審判を有利に進めることができるかどうかは、第1回の審判期日前に、ある程度は決まってしまうといっても過言ではありません。
労働審判委員会は、事前に当事者双方が提出した書類や証拠に目を通した段階で、おおよその心証を固めてしまうことが多いです。
審判期日には審尋(事件の当事者や関係者に対して口頭で質疑応答を行い、事実関係を確認する手続き)も行われますが、実際には、労働審判委員会が抱いた心証に間違いがないかを確認し、微調整が行われるに過ぎないというケースが多くなっています。
しかし、どのような書類や証拠を提出すれば自社に有利な心証を抱いてもらえるかを、事前に判断するためには専門的な法律の知識を要します。
そのため、裁判所へ書類や証拠を提出する前に、法律のプロである弁護士のチェックを受けることが非常に重要です。
審判期日には審尋が行われる他にも、和解(調停)による解決も図られますので、弁護士に依頼した場合でも会社の関係者が出席する必要があります。
まず、和解による解決に備えて、社長またはその事案に関する決裁権を有する役員などが出席することが望ましいです。
それに加えて、事案の内容をよく知っている人の出席が必要不可欠といえます。
なぜなら、審尋で話す内容は労働審判の結果を直接的に左右する可能性が高いからです。
具体的には、解雇に関わった上司や人事担当者などが適役となることも多いですが、事案の内容によっては申立人の同僚などの出席が有効となることもあります。
このように、社内で誰が期日に出席するかは重要な問題ですので、その選定については弁護士の判断を仰いだ方がよいでしょう。
また、労働審判を有利に進めるためには、審尋でどのようなことを尋ねられるのかを予測しておくことも大切です。
弁護士に想定問答集を作成してもらうなどして、質疑応答の予行演習をしておくと、万全の体制で審判期日に臨むことが可能となるでしょう。

ここでは、労働審判の初動でやってはいけないミスについて、弁護士の視点から注意点をご説明します。
実際には、答弁書の提出期限に遅れても、審判期日前に提出すれば受け付けられます。
しかし、直前に提出したのでは、労働審判委員会が自社の主張内容を十分に把握しないまま、期日を迎えることになりがちです。
また、自社に明確な主張があったとしても、答弁書に記載した内容が曖昧では、労働審判委員会に把握してもらうことはできません。
このように、書面の提出がギリギリになったり、主張が曖昧であったりすると、労働審判委員会の心証は申立人側に傾きやすくなり、場合によってはそのまま申立人の主張を認めた審判を下されることにもなりかねません。
審判期日を迎える前の準備が不足すると、審尋で適切な証言をすることは難しくなります。
特に、答弁書に記載した内容と、審尋における当事者や関係者の証言内容とが食い違うと、答弁書に虚偽の内容を記載したのではないかと疑われるおそれがあります。
また、例えば人事担当者の証言内容と同僚の証言内容とが食い違うような場合にも、自社に有利な証言の信用性が低下してしまう可能性が高いです。
証言の食い違いが頻発したり、重大なポイントで食い違いが生じたりすると、労働審判委員会に「この企業は信頼できない」といった印象を持たれてしまい、不利な結果につながる可能性が高まります。
証拠が十分に揃わないケースは少なくありませんが、あるべきはずの証拠がないとなると、労働審判委員会から証拠の隠蔽を疑われることにもなりかねません。
例えば、無断欠勤や遅刻を繰り返した従業員を解雇したケースで、タイムカードなどの勤怠記録を保管していないといっても、よほど昔の事案でもない限り、労働審判委員会には受け入れられないでしょう。
また、通常なら提出すべき証拠を、労働審判委員会から指摘された後に提出するような場合も、印象は悪くなってしまうでしょう。
弁護士に相談すれば、事案の内容に応じて、提出すべき証拠の種類や、その集め方などについて具体的なアドバイスが受けられます。

弁護士に依頼すれば全面的なサポートを受けることができますが、弁護士に一任しておけば満足できる結果が得られるというわけでもありません。
ここでは、企業と弁護士とがどのような対応をしていくのかについて解説します。
まずは、労働審判で不当解雇を訴えられたときの初動対応(第1回審判期日までにやるべきこと)を、確認していきましょう。
チェックリストの形でまとめましたので、1つずつご確認ください。
| チェック | やるべきこと |
| 書類に一通り目を通す | |
| 第1回期日の日時・場所を確認する | |
| 答弁書の提出期限を確認する | |
| 申立人の主張内容を確認する |
| チェック | やるべきこと |
| 企業法務や労働問題に強い弁護士を探す | |
| 法律相談の予約をとる | |
| 事件に関連する資料を幅広く集める | |
| 相談時に弁護士費用を確認する | |
| 弁護士と委任契約を結ぶ |
| チェック | やるべきこと |
| 社内の関係者からの聴き取りなどにより事実関係を調査する
※弁護士が行うこともある |
|
| 事案の内容をよく知る関係者から聴き取った内容を陳述書にする
※弁護士が行う |
|
| 把握した事実に関連する資料を収集し、保全する
※弁護士のアドバイスに従うことが重要 |
| チェック | やるべきこと |
| 実際の解雇理由に正当性があるかを確認する
※弁護士の判断を仰ぐ |
|
| 申立人が主張する事実のうち、認める部分と認めない部分を吟味する
※弁護士との協議による |
|
| 申立人の主張に対する反論と自社の主張を法的に整理する
※弁護士との協議による |
|
| 自社の主張の裏づけに必要な証拠を選び出し、写しを作成する
※弁護士が行う |
|
| 答弁書と証拠を裁判所へ持参または郵送により提出する
※弁護士の事務所が行う |
| チェック | やるべきこと |
| 期日に出席する担当者を選定する
※弁護士のアドバイスに従う |
|
| 出席者に対し、審尋の想定問答などについて打ち合わせを行う
※弁護士が行う |
|
| 和解(調停)について、希望案や落としどころ、最大限譲歩できるラインを検討する
※弁護士との協議による |
上記のチェックリストのうち、弁護士に依頼した後のタスクにはすべて、弁護士が関わることになります。
弁護士に依頼した以上は当然のことでもありますが、それらのタスクのほとんどは、法律や労働審判の手続きを熟知していないと、適切に進めることが難しいものばかりです。
これらのタスクを弁護士のサポートなしに行うとなると、スムーズに進めることは難しいでしょうし、法的に当を得た対応をすることも難しくなるでしょう。
ただし、第1回期日の直前に初めて相談したのでは、弁護士といえども十分なサポートをすることは困難です。
労働審判で不当解雇を訴えられたら、早期に弁護士へ相談することで、スピーディーかつ正確な初動対応が可能となります。

弁護士法人山本総合法律事務所は、群馬県内でも有数の規模と実績を持つ法律事務所として、数多くの企業の経営をサポートしております。
複数の経験豊富な弁護士が対応いたしますので、スピーディーかつ正確な対応が可能です。
労働審判で不当解雇を訴えられた場合、企業が損をしないためには時間との勝負になる側面もございます。
お困りの際は、お早めに当事務所へご相談ください。
当事務所では経営者様に向けた法的サポートを行っております。
経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
Comment
この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。